就任4戦目で初勝利をつかんだガンバ大阪・宮本恒靖監督の采配力とは?

 気がついたときには、ガンバ大阪を率いる宮本恒靖監督(41)はピッチのなかへ足を踏み入れていた。1対1のまま突入した4分間の後半アディショナルタイムもほとんど残っていない状況で、FWアデミウソンが劇的な勝ち越しゴールを決めた直後だった。

「嬉しかったですね。みんなが勝ちたいと思ってプレーしていて、自分自身も勝ちたいという思いでしたけど、まさかああいうゴールが決まるとは思っていなかったので」

 ホームのパナソニックスタジアム吹田に2位のFC東京を迎えた10日の明治安田生命J1リーグ第21節。相手ゴールに背を向けた体勢で縦パスを受けたアデミウソンが、反転して迷うことなく左足を一閃する。ペナルティーエリアの外から放たれた強烈な弾道が、ゴールの右隅を鮮やかに射抜いた。

 日本代表のキャプテンとして、2度のワールドカップを戦った現役時代から冷静沈着かつスマートを身上としてきた指揮官が、我を忘れたかのようにピッチ上へ繰り出し、派手なガッツポーズを繰り返している。就任から4戦目。難産の末に手にした初勝利の味は格別だった。

「同点に追いつかれても、選手たちが前回までの試合には見られなかった『もう一度立ち向かう』というところを見せてくれた。みんなのハードワークでつかんだ勝利だと思うし、サポーターにも勝利を届けたかったので。本当に素晴らしい勝利だったと思います」

 鹿島アントラーズとの初陣は、右サイドからDF米倉恒貴が放ったクロスが幸運にも相手ゴールに吸い込まれる同点弾となって勝ち点1を拾った。続くジュビロ磐田戦は後半アディショナルタイムの最後に追いつかれて、無念の勝ち点1に終わった。

 最下位の名古屋グランパスと対峙した前節は、2点をリードして前半を折り返しながら、元ブラジル代表FWジョーにハットトリックを達成されて敗れ去った。順位は自動降格圏の17位に下がり、さらにグランパスには1ポイント差に肉迫された。

 今シーズンから指揮を執った、ブラジル人のレヴィー・クルピ前監督は開幕前のキャンプでほとんど走り込みを行わなかった。フィジカル的な貯金をまったく作れていなかった弊害が、日本列島全体を襲った歴史的な猛暑のなかで、後半に入ると足が止まる負の連鎖を招いた。

 さらにはチーム内で断トツとなる9ゴールをあげているFWファン・ウィジョが、インドネシア・ジャカルタで開催されるアジア競技大会に臨む韓国代表に招集されて離脱。FC東京戦を皮切りに、最大で5試合を欠場する事態に見舞われても、宮本監督は自身が積み重ねてきた軌跡を信じた。

 ファン・ウィジョの代役に指名したのは、J1で通算27ゴールを決めている192センチの長身FW長沢駿ではなかった。熊本県の強豪・大津高校から加入して3年目の20歳で、J1の舞台には一度も立ったことのないFW一美(いちみ)和成を緊張と興奮とが交錯するデビュー戦のピッチへ送り出した。

「J3の試合やトップチームの紅白戦を春先から見ていて、一美はJ1の選手相手にも十分できるのではないかと思っていました。ウィジョが抜けたなかで、FC東京のセンターバック2人を相手にしたときにフィジカルが強く、ボールを収めることができて、ファーストディフェンダーとしてチームのために献身的に働いてくれる姿勢を求めて、チャンスをつかんでほしいという思いで送り出しました。落ち着いてやっていたと思いますし、ゴールに迫る場面もあったので、今後も期待したいと思います」

 J3に参戦しているガンバ大阪U-23を昨シーズンから1年半指揮してきたなかで、宮本監督はボランチで高卒ルーキーだった高宇洋(こう・たかひろ=市立船橋)と高江麗央(東福岡)を、FWでは一美を我慢して起用。まさに手塩に掛けながら、ときには厳しい姿勢で接して育ててきた。

 高と高江はハードワークを厭わず、球際の強さでも頭抜けていた。181cm、77kgの一美はフィジカルの強さを最前線で発揮するファイター型。ごく近い将来、ガンバのトップチームに欠かせない存在になると信じて、勝利と育成の両面が求められるU-23チームの主軸に据えた。

 迎えた先月23日。成績不振に伴いクルピ前監督が解任され、火中の栗を拾う形で、今シーズンからトップチームのコーチも兼任していた宮本監督が誕生する。真っ先に手がけた仕事が、J3が中断期間に入ったことに伴い、オフを与えていた3人を大阪へ呼び戻すことだった。

 宮本監督就任後の4試合で、高はボランチとしてすべて先発フル出場。高江もジュビロ戦で38歳のレジェンド遠藤保仁に代わって先発して高とコンビを組み、出場機会こそ訪れなかったものの、一美もベンチからトップチームの戦いを見つめてきた。

「外から見ていてもどかしい気持ちもあったし、試合に出たらこうしてやる、という気持ちもあった。得点することはできませんでしたが、自分のいいところは出せたと思います。ウィジョがいなくなるのでチャンスだと思っていましたし、いつスタメンが来ても、という心の準備はできていました」

 デビュー戦をこう振り返った一美は後半36分までプレーし、FC東京が誇る屈強なセンターバック、元日本代表の森重真人と韓国代表としてワールドカップ・ロシア大会にも出場したチャン・ヒョンスと肉弾戦を展開。結果として2人の体力を削ぎ落した。

 後半27分から投入された高江は、J3を戦いながらあうんのコンビネーションを築いてきた高とダブルボランチを形成。前線に配置された遠藤を守備面でフォローし、パスセンスを含めた攻撃力をフル稼働させる状況を整えた。

 そして、歓喜の決勝ゴールを巻き戻してみると、アデミウソンへ縦パスを入れたのは高であり、高へ横パスを配給したのはカウンターから右サイドを全力で駆け上がっていた高江だった。

「高江は運動量が持ち味なので、苦しい時間帯での途中出場でしたけど、ああいう(カウンターでの)プレーがキーになったと思います。高に関してはもっとやってもらわなきゃいけない選手ですし、守備面だけでなく、攻撃面で最後ああいうクサビのパスを入れましたけれど、ああいう回数や質、さらには平面のパスだけでなくてもう少し空間に落とすようなボールも求めています」

 過密日程が続く夏場においてはすぐに迫ってくる試合への調整に追われ、戦術を落とし込む時間がなかなか作れない。ゆえにJ3の戦いを介して自身のイズムを熟知している東京五輪世代のホープたちを積極的に起用し、チーム内に新しい風を吹かせながら、戦い方の羅針盤にもすえている。

「まだ1試合しか勝っていないので、次に向けてしっかりやっていかないといけない」

 試合後の公式会見では浮かれない姿勢も見せた指揮官だが、既存の戦力と若手が融合しつつある過程によほど大きな手応えを感じたのだろう。会見を終えて退室しようとした瞬間、おもむろに立ち止まった宮本監督は自ら拍手を求め、拳を握りしめた右手を高々とあげて少しだけ笑顔を浮かべた。

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